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助手席ドアのヒンジのナットが緩く、そのせいで少し軋んだ手応えがある。
無言で何度も開閉して音を確かめる僕を前に、オーナーの口元が強張ってゆく。
「ちゃんと直せてないねえ、」
嘘ではないが、真実に満ちているとも云えない。僕は、鈑金業者が増し締めを失念しただけだろう、という意味で呟いただけだ。
次にあなたはこう云う。ありふれて素人じみた言葉を。
「経年劣化でガタが来てるんだろう。少し前からそんなだよ」
僕はそれ以上の追及はせず、ニコニコと検査証の写真を撮る。次に、コーションプレート。最後にエンジンカバーを外してシール部分を随所に撮る。
とくに理由は無い。原動機、補機類ともいたって好調だ。タイヤはREGNO。ディーラーに勧められるがままに付けたような上級銘柄がいまだ深い溝を残している。
オーナーは離れた所から仁王立ちで僕を眺めていた。
足回りは乗らないと分からないけど、億劫なのでオーナーの人柄で判断することにした。
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