王国

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ーーーーーーーーーーー  成績表を前にして、改めてグラフを確認する。  何故か、様々な業界において営業職とはどこか古典的で、扱う単価が大きいほどアナログな風習が続いているものだ。  成約件数・商談件数・成約率。僕の今月は、どの値も他の営業の倍から三倍を超えている。入社初月から現在まで、瞬間的にすらトップを譲ったことはない。  尤も、これは勝てる品に絞って社内向けの数字を作り出しているに過ぎない。額の大きいものは他所も張り合うし時間がそれなりに食われるので、経験が足りないなどと適当に仕立ててロートルに投げることにしている。 「火星石油電力の大型集塵機(ベンチュリースクラバー)、第一見積りが6億だそうです」 「どこ?」 「(はなぶさ)商事、」 「無理っぽいね。専務と行ってくる?」 「それは…最近は購買が厳しいんで、どうでしょうか、」 「何とかこじ開けようよ。主席に話してみて」  不毛な会話と、アナログな訪問。人間関係とは良くも悪くも(いびつ)な力学で、それで1億円の差が埋まることすらままある。営業とは得てしてそこへつけ込み、あらゆることを追い風にして、最終的には受注を、利益を獲れば佳しとする。  ただ、何度も足を運び、相手方の時間を割いて『お願い』するのはもはや営業と呼んでいいのか分からない。火星石油の電力部が僕なら、この男に任せるだろうか。
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