侵攻

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しかし、これは司馬懿にとっても好都合だった。 相手を軽んじてくれればそれだけ油断を誘う。 訓練不足の分を向こうの油断で補えるだろうと、そういう目算もできた。 黄蓋隊にも指示書が渡ったところで、司馬懿は命を下した。 「皆の者、配置に着け。指示と同時に行動を開始せよ」 司馬懿は曹仁隊が見えると手を振り上げ、くるくると指を振った。 するとどうだろう。 兵達は司馬懿を中心に蠢く蛇のように動き、やがて陣形を整えた。 混元一気(こんげんいっき)の陣。 そういう名の陣形であった。 「ふん、あのような陣形。どうやら知識ぐらいはあるようだな。しかし、書物と実戦は大いに違う!」 曹仁はその勇猛さに任せて突進してきた。 その後を波のように追う兵士達。 この圧倒する気迫を前に、司馬懿は冷静に手を振り上げた。 「首軍は転じて曹仁を囲い込め。黄蓋隊は停したまま敵を迎撃せよ」 司馬懿の指揮は非常に迅速かつ的確であった。 そのため指揮が行き届き、兵達の動きも機敏になってきた。 円石を千仭の山にするが如く、司馬懿の指揮というのは全軍の勢いをそのまま活かすようであった。 相手は名将曹仁、しかも兵の数で劣っているのである。 にもかかわらず、曹仁を相手に見事対応しているのだから、百戦錬磨の曹仁ですら動揺を覚えたという。 「さて、久しぶりの戦だな。公孫淵(こうそんえん)の時はしかし……フフ、だとすれば、大いに楽しくなりそうだ……」
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