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午後九時を過ぎて、ようやく娘は入学式用の服を脱いだ。それを綺麗にハンガーに掛けて布団に入る。
「ねえ、明日の入学式、お父さん来てくれるかな?」
娘が横になったまま話しかけてくる。
「きっと来てくれるよ。心配しないで早く寝なさい。明日、遅刻したら困るでしょう?」
「はーい」
娘は元気よく返事して目を閉じる。だけど、興奮と緊張でなかなか寝付けないらしく、何度も寝返りしては目を開けている。私はそんな娘を、隣で静かに見守る。
夫は離婚するときに、娘の幼稚園の行事には可能な限り顔を出してくれると約束した。私は、運動会や、お遊戯会、卒園式と、全て夫に連絡した。それは、私のためではなく、あくまでも娘のためだ。親の勝手で離婚したけれど、娘にとって父親は夫しかいない。少なくとも、娘が小さいうちは、行事くらいは両親揃っていてやりたい。
だけど、夫は決まり文句のように“都合が悪い”を繰り返し、娘の行事には顔を見せなかった。その度に、娘はひどく悲しそうな顔をするし、そんな娘を見ている私も辛くなる。だから、私は今回で最後と決めている。もしも明日、夫が入学式に顔を出さなかったら、もう連絡するのをやめる。
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