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「手伝うって何よ!? 子育ては私一人のものじゃないでしょう!?」
「ああ、もういい。やる気も失せた」
夫はそう言うと、部屋を出ていこうとする。夫はいつも形勢が悪くなると、その場から逃げ出してしまう。普段ならば、それで終わりなのだけど、今回ばかりは私も簡単に許せそうにない。背中を向ける夫に、罵声を浴びせかける。
「また逃げるの!? 都合が悪くなったらいつもそうやって逃げるんだから!! たまには子供の面倒でも見たらどうなのよ!?」
すると、夫は立ち止まり、不機嫌さを最大限に表に出して振り返る。
「セックスもしないのに、そんな気分にはなれないね」
「はあ!? またセックス!? 頭がおかしいんじゃないの? そんなにセックスしたいなら、好きなだけセックスさせてくれる女と結婚したらいいじゃない!!」
「わかった。そうする」
夫はそう言うと、部屋を出ていった。
正直に言うと、特別に見た目がいいわけでもない三十代後半に差し掛かった夫に、愛人などできるはずもないと高を括っていた。そもそも、夫はそんなに女性からモテる訳でもない。実際、あの夜から一年が過ぎても、夫に愛人ができた様子はなかった。
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