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「お前の“でもね”は聞き飽きたよ。結局そうやって、セックスしたくない理由を挙げ連ねて、セックスしない方向に持っていくんだろう?」
「そうじゃなくて……」
「ああ、もういい。聞きたくもない。俺はカノジョと結婚するつもりだし、お前とは離婚するつもりだ」
夫の口から出た“離婚”という言葉に、胸の奥の方がズキンと痛む。私自身が離婚を考えていたとしても、まさか夫の方から切り出されるとは思ってもみなかった。いざ離婚の危機に直面すると、その衝撃は想像以上だ。私はただ狼狽えた。
「ごめんなさい。これからはセックスしたいって言われても、嫌な顔なんかしないようにするし、できるだけあなたの要求にも応えるようにするから。だから、カノジョとの関係は清算して」
「その、仕方なしって感じが嫌だって言ってるのがわからない? とにかく、もう決めたんだ」
そう言うと、夫は私に背を向けて歩き出す。
「どこに行くの?」
「カノジョの所」
夫はそう言うと、翌日の仕事に必要なシャツや鞄を持って家を出ていった。堪えていた涙が私の目から溢れ出し、頬を伝って落ちる。目を覚ました娘が寄ってきて、心配そうな顔で私を見上げる。私はそんな娘の頭を優しく撫でてやることしかできない。
そして、その日から一週間、夫は戻ってこなかった。
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