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一週間後、家に戻ってきた夫を、私は笑顔で迎えた。もちろん、訊きたいことも言いたいことも山のようにある。だけど、そんなことを口に出してしまえば、また喧嘩になるだけだ。そうなれば、夫はまた帰ってこないだろう。まずは夫を家に引き止めるところから始めなければならない。
私は夫と向かい合って夕食を摂る。夫は喋ることもなく、ただ黙々と料理を口に運ぶ。重苦しい食卓の雰囲気を何とか打ち破ろうと、昼のワイドショーで仕入れたネタを振ってみるけれど、夫は「ああ」とか「ふうん」とか生返事を繰り返すばかりで、まともな会話にならない。
何かいい話題はないものかと考えた私は、敢えてあることを尋ねてみることにした。
「ねえ、あなた。カノジョってどんな人?」
その一言に夫の表情が曇る。
「何でそんなことを訊くんだ?」
「ちょっと気になっただけよ。別に、答えたくないなら答えなくてもいいけど」
夫は何かを考えるように少し黙り込んだ後で、
「可愛い女だよ」
と答えた。
「名前は?」
「祐奈」
「何歳?」
「二十八歳になったばかり」
夫が答えたその年齢に、私は衝撃を受けた。私より十歳も若い。単純に、どうやってそんな若い女を捕まえたのかが気になった。
「どうやって出会ったの?」
「行きつけのバーで、たまたまカウンター席で隣になってさ。それで、俺と同じ酒を飲んでて、声をかけたら酒の話で盛り上がって」
心なしか、夫の表情が少し緩んだように思える。
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