Divorce

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 夫はウィスキー党で、スコッチを好んで飲み、その中でもアイラモルトをこよなく愛している。アイラモルトはピート香が強く、薬のような匂いがする。夫に言わせればその匂いがいいらしいけれど、酒を飲まない私にはその良さがわからない。  もしも夫がバーで飲むとしたら、アイラモルトに決まっている。ラフロイグかカリラか、あるいはラガヴーリンあたりだろう。そんな酒の話で盛り上がれるのなら、夫がその女を気に入らないわけがない。それに、夫の方から声をかけたのだとしたら、その女がそれなりに好みの容姿をしていたということなのだろう。  若くて、夫好みの容姿で、共通の話題で盛り上がれるとなると、もはや私には太刀打ちできないようにも思える。それに加えて、夫が求めるようにセックスもしてくれるとなれば尚更だ。だけど、私にも十年間──恋人時代も含めると十二年間──寄り添ってきた情があるだろうし、何より娘がいるという強みもある。 「ねえ、セックスしよっか」  私は思い切って夫を誘ってみる。他の女を抱いた後の体で抱かれるのは、はっきり言って気持ち悪い。それでも、夫を引き戻すためには、それも我慢しなければならないと思った。だけど、夫は首を横に振る。 「言っただろう? お前とはもうセックスしないって」 「違うのよ。嫌々ながらするとかじゃなくって、どうしてもあなたに抱かれたいの。私がセックスしたいの」     
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