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「ふうん。でもさ、俺がしたいときは散々拒否されてきたのに、何でお前がしたいときは俺が言うこときかなきゃならないんだ?」
夫の言うことは、ある意味ではもっともだ。逆の立場なら、きっと私も同じように思うだろう。だからといって、素直に引き下がるわけにもいかない。
「ねえ、お願い」
私は科を作るけれど、夫はまるで興味なさそうに、再び黙々と料理を食べ始める。今までは、私が誘って夫に断られることなんてなかった。それだけ、夫の気持ちが私から離れていってしまったということなのだろう。焦りと不安と悲しみとが混ざりあった複雑な感情が、私の中に無限に広がっていった。
夫はそれからもたびたび外泊した。通常はニ、三日、長いときは一週間くらい。家に帰ってくるたび、夫は自分の服やら本やらCDやらを持ち出してゆく。それらのものの行き先は、おそらく祐奈という女の家なのだろう。家の中から夫のものが減ってゆくのを見るたび、少しずつ身を削られていくような感じがする。どこかで歯止めをかけないと、確実に離婚へと繋がるのは明白だったが、気持ちが焦るばかりで、何の手立ても思いつかない。
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