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再び老俳人
ごと。
と大きな音がして、行灯の明かりが揺れた。
寝返りをうって投げ出した手で、行灯を叩いてしまったらしい。
いつ寝床に入ったのかまったく記憶になかったが、着物のまま水風呂を浴びたみたいにひどい寝汗だった。
改めて耳を澄ませてみると、隣室の女連れも眠ったらしく、しんとしている。
すっかり更けた夜の中で宿全体が沼のような静寂に沈み、ただ夜道を急ぐらしい旅人のひたひたと土を踏む音だけが、通りから雨戸を通して聞こえてくる。
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