eins,たびのはじまり

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eins,たびのはじまり

 遠い未来のおはなし。宇宙では生身の体でも息ができる生物がいた。太陽系から少しばかり離れた星にそんな生物がいた。  性別はなく、食べ物とするのは星や光。体内に取り組んでそれをエネルギーに変えて動いているのだ。  そんな生物の中の一人、彼の名前はモルゲン。ラピスラズリのように光る、肩にかかるくらいの髪、金色に輝く瞳、軍服に身を包んだ彼は、戦争から帰ったばかりだった。帽子を深く被り、家族に敬礼した。  「ただいま帰還しました!」  大声を張るも、もう誰も残っていないようだった。モルゲンは朽ち果てた建物を、まるで、まだ朽ち果てていないとでもいうように、扉を開けたり、窓を開ける素振りをした。それもそのはず。彼には朽ち果てている建物という認識はないから。まだ家族も生きているという幻覚を見ているから。だから、家の敷地の前で、近隣住民が、モルゲンを変人扱いしていた。「幻覚でも見ているのかしら」「いやね、もう跡形もないのに」と、囁きあっていた。  モルゲンは家を出て、また敬礼し、帽子を深く被りなおして、家の近くにある高い丘にのぼった。     
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