待ってた

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「智也」 突然、物影から現れたスーツ姿の智也に抱きしめられた玲子。 ーーーどうして? 智也に、こんな風に抱きしめられたことなんかなかった。 智也の両腕が玲子の背中にまわり、少しかがんでいる智也の肩に玲子の顎が触れた。 「ど、どうしたの? 智也」 頭が混乱していた。 ーーーそうだ、話があるって言ってた。 「智也、話って何? 緊急の用事? わざわざ来るなんて」 「……」 智也は動かないまま、玲子を抱きしめていた。 「……もう、遅いよな?」 「えっ、遅いって……時間?」 抱きしめられているという事実が、全く現実的では無かった。驚きのあまり、思考回路が停止している。 「昨日……玲子の家を出た時から、考えてた。玲子のこと」 ーーー私のこと? 「千春と別れても俺が落ち込まないでいられたのは、玲子がいたからだと思うんだ」 ーーー沖縄出身の彼女と別れた後、なんとか智也を励まそうって、そりゃ頑張った。だけど……。今ごろになって、どうして? 「徹を紹介しておいて、今になって徹の側にいる玲子を見て、胸が痛くなり出したんだ。……今ごろ気がつくなんて遅いよな?」 智也が腕の力を緩めて、体を離してから玲子の腕を掴み顔を見つめてくる。 ーーー智也、それって? 胸が痛くなる気持ちって? まさか! 玲子の頭に一つのあり得ないが、何十年も望んだ考えがぼんやりと浮かんで形をなしつつあった。 ーーーまさか、智也が? あり得ない。今まで、ずっと友達で妹みたいなもんだった。 玲子の見上げた先にいる智也は、赤い顔して瞳を輝かせていた。 ーーー何? 智也、そんな顔して見つめるの? 私は、妹みたいなんでしょ。なんで急に……。 「俺は、玲子が好きだ。徹に渡したくない」 両腕を掴む智也の手に力が込められていた。 唖然として智也を見上げる玲子。 「智也、今……なんて?」
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