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それから、智也がいつもみたいに玲子の頭をくしゃくしゃってして、はにかんだように笑った。
ーーー智也、本当なの? 叶ったの?
もう一度、智也が玲子を引き寄せて抱きしめた。
「良かった。俺、きっと玲子を失ってたら今度は立ち直れないと思ってたんだ」
ーーー智也の匂い。憧れていた温もり。こうして、抱きしめられることが夢みたい。
「寒いな、家入るか」
二人して外だということを忘れていた。
にっこりと微笑む智也が、玲子の手を握った。
憧れていた世界。
大好きな智也に手を握られることは、これまでにもあった。でも、それは好きだから繋ぐ手とは違う意味合いのものだった。
31歳にもなって、手を握られただけでドキドキしていた。胸があまりの衝撃に爆発してしまいそうなくらい。
大好きな智也が自分を好きだと言ってくれた。自分も思いがけずに長年の思いを伝えられた。それもこれも、西のおかげだ。
エレベーターを待ちながら、玲子は最後に見た西の優しい表情を思い出していた。
ーーーやっぱり、私はとんだ化け猫だわ。それも、メスの化け猫だ。こうなった今、智也のことで頭がいっぱい。西のことなんか考えられない。
あんな刺青の男なんか……関わりにならない。
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