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それから、どうした訳かニコニコ顏の智也がソファの近くに置いてある平べったくて丸いクッションの上に座り、ソファに玲子と西が並んで座っていた。
「イチゴありがとう。智也」
「どういたしまして。喜ぶ玲子の顔が見たくて持って来たんだ」
少年みたいに屈託のない笑顔だ。
「ふーん。いつも持って来るんすか? 智也さんって……自分の彼女でもないのに」
西がトゲのある言い方をした。
「ああ、玲子は特別だから」
ーーー智也の言葉に私は翻弄されてしまう。特別……。智也にとって、私は……。
「特別? なんだか妬けるな。智也さん、もう玲子は、俺の特別だから……少し遠慮してくださいよ」
玲子の肩に腕をまわす西。玲子の体を自分の方へ引き寄せた。
その様子を目をぱちくりさせて見ていた智也は、大きく頷いた。
「あーー、そうか。気を利かせろってことか。だよな、うん。ごめんな。邪魔して」
「智也、邪魔だなんて、そんなことないよ」
立ち上がる智也を追うように立ち上がろうとした玲子の二の腕を西が掴んで座らせた。
「いいんだ。玲子。お前らが仲良くやってくれたら、俺も紹介したかいがあったってことだから」
「智也……」
ーーーそんなに嬉しい顔して。西と仲良くやって欲しいの? それが智也の願い?
玲子は、智也を見つめた。
ーーー大きく口を開けて、笑ってる。大きな目がなくなるほどに。
「見送りとかいいから、また明日な。徹」
「はーい、お疲れっす」
智也の元気な足音が遠ざかる。永遠に聞けなくなるような気がする。
玄関のドアが静かに閉まる音がした。
智也がいなくなった家の中は、急に肌寒く感じた。
玲子の腕から手を離した西は、背もたれにもたれかかり、長く息を吐いた。
「柄にもなく…俺ときたら…女のことで妬いちまってた」
「…え?」
隣に座ったまま玲子が、沈んだ表情で西を見た。
西が少しだけ体を起こして、ソファの上にあった元気のない玲子の手を握った。
「あんな鈍感な男は、やめとけば」
「……」
ーーーやめられないから、困ってる。
「智也さんは、お姉さんを傷付けてばっか」
「……」
ーーー傷ついても…智也を忘れられない。
「あのさ、俺を使えばいいよ」
「えっ……」
突拍子もない言葉に玲子は、驚いていた。
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