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まっすぐな視線を玲子に向けて、手を握る西。握った手に力を込めてくる。
「俺を使えよ。智也さんの代わりにしてもいいし。自分から誰かの代わりにしろなんて…馬鹿らしいこと、今まで一度もいったこと…ないんだ」
西が玲子の頬を手のひらで覆う。
「俺は自分で一度決めたことを、絶対にやりとおしてきた。訪れたチャンスは必ずものにするし、絶対、逃さない」
西の掌が玲子の耳に動き、後頭部と首の間あたりに置かれた。
近づいてくる西を動かずに玲子は見ていた。
テーブルの上に置かれたイチゴを見て、智也と飲んだシャンパンの味を思いだしていた。
「お姉さんにキスする……そう決めてた。今日、家に入った時からね」
西の薄い唇が玲子の唇に触れた。
触れた唇は、少しだけ温かく…少しだけしっとりしていた。
玲子の唇を挟むようにしてされたキスは、優しくてもの悲しかった。
玲子の瞳にみるみるうちに透明な液体が溜まっていた。
まばたきと共に落ちた雫は、西の艶めいた頬に伝わる。
キスをしたまま、骨ばって細かい傷のある指先が、頬をつたう雫に触れた。
西の人差し指の爪と皮膚の間が雫で濡れた。
唇を離した西は、濡れた人差し指を眺め指先を赤い舌先でペロリと舐めた。
そのあと、雫を落とすことをやめない玲子の顔に近寄り、涙袋に…目尻に…キスをした。吸い取るようにゆっくりと何度も何度も優しいキスを繰り返した。
玲子の両方の目に、西のキスが何回も落とされた。
「代わりなんか…いらない」
ーーー智也以外、いらない。
「もっと素直になれ」
「智也の近くにいたい」
ーーー智也でなくちゃ意味がない。
「俺の近くにいればいいよ」
「貴方は、智也に少しも似てないもの」
ーーー西なんかじゃ満たされない。
「同じ男だ。そう大差無い」
「大有りだわ。代わりの男なんか…いらない」
ーーー智也がいい。智也しかいらない。
「智也が好き。智也でなきゃ嫌!」
西のがっしりした腕が玲子を引き寄せ、力強く抱きしめた。
「わかってる」
ーーーどうしよう、力が入らない。
身動きを封じるような抱きしめ方だった。
「……わかってるけど、もう決めたから。俺は、お姉さんのそばにいる。それだけは決めた。本気だ」
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