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「親父は、俺の本当の親じゃねぇんだ。でもさ、俺にはとって親父は、あの親父だ。本当だとかそんなのは関係ねぇ」
ウォータースクリーンに知っている俳優が出ていた。玲子は、流れる哀しげな音楽に西の話を重ねていた。
ーーー本当の親じゃないだなんて。そんな話、本当にあるのね。私なんか平凡な人生過ぎていたから、この人には、いつも驚かされるわ。
「親父は息子が、極道になるのは嫌みたいでさ。なるべく普通の家の子みてぇに育てたがったんだと。だから、俺も普通に高校へ行き、大学も出て、そこそこの会社へ就職した」
西は、スクリーンへ顔を向けて言葉を切った。
「智也と同じ会社ね、それで?」
ゆっくりと向く玲子の方を西。
「まだ、聞きてぇの。ほんと変わってる」
苦笑いする西。
「でもね、去年、親父が病気で倒れたんだ。今まで世話になった分、恩返ししてぇし。俺が親父の跡目をついで組をまとめれば親父が大きくしてきた会社は潰さねぇで済むんだ。だから、親父の跡を継ぐケジメと決意表明の意味で虎を入れた」
玲子は、膝に置いていた手を握りしめた。
西は、ソファから体を起こし、つまみに頼んだイベリコハムをフォークでさした。
「虎は、強さの象徴だからな」
ハムを口に入れて噛んでいる西を玲子は黙って見つめた。
「親父には、俺の決意をまだ話してねぇ。会社を辞めて、跡を継ぐって話」
「会社、辞めるの?」
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