問題だらけの私たち

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 消灯後の看護師のみまわりが済んでから、こっそり病室を抜け出し、霧島という男とトイレで秘密の逢瀬を重ねるようになったのは、一週間ほど前からだった。  ここは、いわゆる精神科病院。私はうつで、霧島はアルコール依存症の治療のため、入院中だった。  入院当初、私はボロボロの状態だった。何をやってもうまくいかない。未来に希望が全くもてない。一日中ベッドの上で過ごし、虚ろな瞳で天井を見上げているのが常だった。  そんな私を病室の外に連れ出してくれたのが、霧島だった。病室でひとりで食事をとる私を、ホールまで連れ出してくれた。ひとりで飯食っても美味しくないだろ?と霧島は言った。それ以来、ホールで一緒に食事をとるようになった。  次第に、食事以外の時間も、ホールで共に過ごすことが多くなった。オセロをしたり、雑誌をみたり。私は、霧島に対してほのかな恋心を抱くようになった。そんなおりだった。霧島から、好意を告げられたのは。  私は少し考えさせてほしい、と霧島に伝えた。私は霧島が好きで、霧島も私のことが好き。一見そこには何の問題も無いように思われる。が、重大な問題がそこにはあった。  霧島には、奥さんと子どもがいたのだ。  霧島と、夜のトイレで抱きしめあう。霧島が私の首筋にキスをする。身体の震えがとまらない。私の快楽のスイッチ、こんなところにあったんだ。霧島にあうまで、全然知らなかった。  結局、しばらく考えたあと、私は霧島に承諾の意思を伝えたのだった。辛く苦しい入院生活の中で、この恋心を秘めておくのは至難のわざだったから。それに、アルコール依存症なら、家族仲はさほどよくはないだろう。私たちはいずれ退院するわけだけど、もしかしたら、その後、奥さんと別れて、私のもとに来てくれるかもしれない・・・。  それがどれだけ浅はかな考えだったか、私はのちに思い知ることになる。
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