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霧島には妻子がいたが、実は私にも彼氏がいた。いや、かつていた、というべきか。もう半年も連絡をとっていない、彼氏が。名を氷川といった。
氷川も、私と同じうつ傾向があった。半年前、私は氷川とケンカをした。それ以来、氷川からの連絡は途絶えた。このケンカが火種となったのか、私のうつはどんどんひどくなり、今回の入院となったのだった。
この病院は規則がゆるく、スマホや携帯電話の持ち込みが許されていた。私は霧島と連絡先を交換した。日中はホールで談笑し、夜はトイレの個室でこっそり抱き合った。淡々とした日々が続いていた。霧島といることで、私は少しずつ元気を取り戻していった。
そんなおりだった。氷川から、突然連絡がはいったのは。
私は、氷川とはもう終わったものだと思いこんでいた。しかし、氷川はそうは思ってなかったようだった。あのケンカの後、氷川も調子を崩していたらしい。しかし、半年かけてなんとか自分を建て直した。半年連絡をとらなかったことについて、まずは謝罪があった。次に続く言葉は、会いたい。私は、頭を抱え込んだ。
「もう終わったと思っていた彼氏から、連絡があったの。」
私は霧島に伝えた。霧島は眉をひそめた。
「きみは俺のものだ。絶対にわたさない。そいつとは別れてくれ。」
霧島は、退院したら奥さんと別れるとまでいった。ただし時期は未定だった。私よりだいぶ年上の霧島には、高校生になる子どもがいた。子どもの進路が確定するまで、待ってほしいと霧島は言った。私はますます頭を抱え込んだ。
結局私は、氷川に別れを告げなかった。妻子持ちの霧島と、独身の氷川。選択するならどう考えたって氷川を取る方がまともだ。
だけど、でも・・・。
氷川のことは好きだけど、霧島に癒やされている自分もいる。
私の中でふたりを天秤にかける日々が始まった。
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