隣を歩く君へ

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隣を歩く君へ

 桜の蕾も随分膨らんできたな。  君は桜の花のように可憐で素敵だ。  そんな浮ついたことを言える度量が少しは欲しいもんだ。  そうすれば、好きと伝えるのにこんな悩まなくても良かっただろうなぁ。  いやしかし、好きという言葉を軽々しく口にするのは諸刃の剣ではあるまいか。  そこに心が籠っていないと見られれば、軽薄な男だと思われてしまうかもしれない。  あるいは浮気性と取られる可能性も。    それはまさに社会的生命の危機だ。  それが実際に好意を感じている女子相手の場合、猶更気を付けて口にせねばならない。  だが、あまりに言わないと言うのも、これまたよろしくあるまい。  相手への好意をまるで持っていないのだ、と諦められてしまう可能性がある。  それで後日彼女を見かけた際、見知らぬ男と親しげに腕など組んで歩いていたら?  自らの喉笛を食いちぎって果てたくなることは請け合いだ。  では一体どういうバランスでこの言葉を口にすればいいのだ。  これはあまりに難しい問題だ。  だが、決断は急がねばならない。  こうして一緒に帰る事ができる機会など、後何度あるかもしれない。  いかに幼馴染で家が近所とはいえ、クラスは別だ。  お互い入っている部活も違えば先々に進む大学だって別。    あるいは今後顔を合わせる事すら数えるほどになるかもしれない。  そしていずれは……。
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