【八月三日】写真

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二人がログハウスへついたのは、まだ夕方にも入らない時間帯だった。長い間、陽に晒された体が枯れかけている。水をやってもまさに焼け石に水で、すでに体力が失われていた。今日の撮影はここまでということで、二人は別れることにした。 「今日何枚撮ったんだ?」  玄関のドアに鍵をさして八尋はいった。神夜は画面を弄ってから、彼にカメラを差し出した。「――九十枚だよ」  ふうん、と一声上げた八尋は、ちょっと待っててくれといって室内からカメラの充電器を持ってきた。「なら、宿題を出そうかな」 「え、貸してくれるの?」充電器を受けとって彼女は目を輝かせた。 「ああ。とりあえず明日明後日の二日間で千枚、写真を撮れ。被写体をよく観察して、思うように撮ってみな。千枚撮ったら俺のパソコンで見てみよう」 「千枚も撮るの……」 「やろうと思えばすぐさ。露出補正を使って撮ることに慣れるんだ」  やってみる、といって彼女はポーチにカメラと充電器を仕舞いこみ、自転車で意気揚々と炎天下へ漕ぎ出していった。 さて、どうしようかと八尋は思う。首無しの亡霊がどこに、どれくらい存在しているのか知る方法がある。風景写真を片っ端から撮ってプリントすればいいのだ。時間的に余裕もある。しかし、あいにくその気力がない。彼は食料の買い出しに留めて、この日の行動を終いとした――。
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