73人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの、先輩…?」
困惑を表に出さないようにしつつ、声をかける。
「_理想…ね」
「…何ですか?」
いきなり先輩が何かを呟いたかと思うと、俺の方を向き、ジッと見つめた。
「何でもねーよ。一切茶化したりしない真面目な俺を想像しようとしたけど、無理だっただけだ」
「そう言われてみると、俺にも想像出来ませんね。先輩真面目では無いですし」
「そんなにはっきり言われると傷つくんだが」
「先輩が先に言ったんじゃないですか」
「自分で言うのと他人に言われるのじゃ全然違うんだよ。しかも言われた相手が、可愛い後輩だとな」
「かわっ…!先輩、さっき真面目じゃないって言った事、根に持ってるんですか?!」
『可愛い後輩』を強調して言う先輩の声色は揶揄いを含んでいた。
「どっちかって言うと、理想って言われたのが嬉しかったからだけど。可愛い後輩って良い意味でしかないだろ?」
「可愛いとか言われたくないですし、頼りになる後輩って言われる方が何倍も嬉しいですけど!」
「……」
「ちょっと、何でそこで黙るんですか…?!」
頼りにならないって事かよ?!
と、少しだけ傷つく。
「…八多喜、そういう所が可愛いんじゃねーの?」
「え、何でですか」
「そうやって頼りにされたが…いや、何でもねーわ」
先輩は何かを言いかけたかと思うと、すぐに口を噤んでしまった。
正直な所、何を言いかけたのか気になる所ではあったが、先輩から出る何も聞くなよオーラっぽいものが出ていて話かけづらくなってしまった。
…結局頼りになる後輩とは言われなかったな。と俺は肩を落とす。
何故か話づらくなってしまった為、ただただ無言で帰る寮への道はいつもより遠く感じるのであった。
最初のコメントを投稿しよう!