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ふと顔を上げると、 鈴さんはじっと俺を見ていた。 大きな瞳に 何らかの感情が波打つのが 見て取れる。 マズイ事を口にした気がして 思わず沈黙した。 「・・・・・・それが、クロミのカリスマ性なの」 鈴さんがゆっくりと箸を置いた。 「ものすごく人を惹き付けて影響するの。無防備で、物事をそっくりそのまま受け入れて、無償に近い優しさで必ずこっちをいい気分にしてくれるでしょ?ところが時々見せる実力が恐ろしくハンパないから、本気を見たらもう一瞬で魅力されてしまう・・・上野のパンダが流し目するようなものよ」 最後の最後にプッと吹いた。 「何ですかそれ。やっぱ二人、似てる所ありますね。その謎の例え話とか七瀬さんも巧いでしょ」 「ああ、それは当然。クロミから学んだ技だからね。例え話じゃイマイチ伝わらないから、昔の話だけど・・・」 鈴さんが切り出した話はこうだ。 高校2年の時に、 得意な何かを全員の前で披露する、 という音楽の授業があった。 その頃の七瀬さんは ピアノが巧い人で有名だったのに それまでほとんど 人前で弾かなかったそうだ。 ピアノ部門は、 いかにも見てくれと言わんばかりの 難易度の高い曲や派手な曲ばかり。 そんな中で 七瀬さんが弾いたのは、 よりにもよって技巧などほぼ不要の ジョンレノンのイマジンだった。
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