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「でも、声質については鈴さんには天性のものがあると思いますね。特徴的だし、女性らしさもあります。それに、ボーカルの経験値は10年以上の差がありますから、そう簡単には埋まらないんじゃないかと」
「だといいけど。まあ、私は努力してこの位置にしがみつく事でしかやり方がないの。確かに声は褒められますけど、声と引き換えにカリスマ性が手に入るならそっちが欲しいですよ」
「無いものねだりか・・・」
「拓真君にもあるじゃない。カリスマ性」
「俺に?」
「ライブでの存在感は圧倒的ですよ。一平さん喰われてますから」
「マジですか。・・・あ、でもそれ、嬉しいんですけど、あんまり言わないで下さいね・・・干されてしまう・・・あ、いや。干されてもいいのか。どうせドラマーとしてはRichelが最後だし」
「ん・・・?どういう事?バンド辞めるの?」
「それは・・・」
時計を見ると
もう一時間が経つ所だった。
時間がなさそうですから
また今度お話しましょう、
という中途半端な別れ方をして、
会計を済ませると俺は車に乗った。
外は信じられない位に晴れていた。
底抜けに明るい日差しに驚いた。
明るいファミレスで向き合っていたのに
まるで真夜中の親密な会話だった。
妙にスカした日差しの中で
鈴さんは心配そうに
見送ってくれた。
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