7/15
前へ
/40ページ
次へ
その日から直々、 鈴さんからメールが入るようになった。 最初は、 物件の伝達漏れだったかもしれない。 本の話だったかもしれない。 けれどそれをダシに プライベートな部分に少しずつ 入ってくる予兆は感じていた。 そして次の土曜、 彼女の仕事が終わる夜8時に ココスの更に隣の居酒屋で 待ち合わせる事になった。 回復しつつあるメンタルではあるが それは悩み事の上に荷物を重ねて 見なくしているだけの事。 更に鈴さんという荷物を重ねて 益々見えなくすれば せめて明日一日位はマシな気分で 過ごせるだろうか・・・ 一人の夜にはもう、疲れてしまった。 通された半個室の 掘炬燵の席。 とりあえずビールを2杯頼むと、 「一応、クロミには了承とってきたんで。堂々と飲みましょう」 鈴さんが気張って宣言した。 その言い方が何だか可笑しくて 少し吹き出す。 「了承って・・・メシ食うだけじゃないですか」 「あら。若いというか甘いというか。音楽上の相方っていうのは、彼氏や夫なんか比べ物にならないほど大事なんですよ?恋にそっくりで、明らかに恋以上で。だから、ネコババしたわね!って火種になる前に手を打っときました」 鈴さんはユーモアを交えて 場を和ませる程度のつもりで そう言ったのだろう。 しかしそれが思いのほか 胸に、ズクンときた。 「・・・・・・大事だと、思って下さってますかね」 音楽上のパートナーに 恋愛感情など禁忌でしかない。 そう決めて今まで来た。 それがあっという間に崩壊した現在、 横から出てきた守田が憎くて憎くて、 どうすれば俺だけの人になるのか 悔しくて悔しくて、 自分の足元はもう グラグラにふらついている。 心の中は、 誰でもいいから救いを求める ただの小さい男だった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加