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鈴さんは
何かを敏感に察知したように
俺の目をじっと覗き込むと、
同情と疑いが混ざったような声音で
俺に問いかける。
「・・・・・・あの。新婚のラブラブ女が、わざわざそれをブチ壊す事すると思います?そんなタイミングで、一度は捨てた道にわざわざ戻って来ます?最初は恐る恐るだったかもしれない。でも、火を点けたのは、拓真君でしょ。あの歌詞が全てだと思いません?」
・・・捨て身、
という言葉がハッと浮かんだ。
これか。
七瀬さんを見て
俺がずっと感じていたのは
これだったのだ。
空いた時間のほとんどを
歌詞と歌に費やし、
危険を犯して夜の時間を裂いてくれる。
妊娠すら根絶するために薬を飲んで、
しかしそれらは全て
主婦という立場からすれば
完全にギルティ。
そしてそれは守田が言った通り、
女性の人生を決める一番大切な時期を
放棄しているのと同じだった。
俺は七瀬さんにこれ以上ない程に
尽くされていたのだ。
「鈴さんは、彼氏がいないと聞いてますよ」
自分の複雑な内心を棚に上げて
俺がそう答えると、
鈴さんは少し顔を赤くしながら
抵抗した。
「実は去年、ちょっとの間、いたんですよ。仕事関係で・・・不倫だったの。だから誰にも言ってない。けど今振り返ると、どこが良かったのかさっぱり分からないんだよね・・・音楽で精神的に繋がるのに比べたら、現実的な恋愛なんてバカみたいに思えたわ。すぐ目が醒めて奥さんにバレる前に別れました」
「へぇ・・・て事は、鈴さんはナル先輩がめちゃめちゃ大事な人って事になりますね」
意地悪で突っ込んだつもりだった。
けれど、
彼女はそれをあっさり受け入れた。
「そだね。当たり前だよ、ナル君しか私の頭の中のイメージを形にできないんだから。音楽的な信頼ってすごいよね。コアが繋がった状態で壁一枚だけ隔てた関係なんて・・・奇跡みたいよ。ナル君とアカーシャっていうバンドがやれた事で、何かに到達できたと思うわ」
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