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で、結局その日は挨拶出来ず、小包も渡せなかった。
と言うより忘れてしまっていた。
自分の荷物を片付けて、母さんが作ってくれた夜食を食べて。
風呂に入る前に行こうと思っていたのが、それを忘れて風呂に入って、その後ベッドで眠ってしまい、そのまま迎えた朝。
起きたら、母さんが朝食の準備をしていたところで、渡せなかった事、それから棚田さんはあまり居ないらしい、という事を説明した。
「家にあまり居ないなら渡すのは難しいかしら。渡せなかったらどうしましょ」
黒のジャージパンツに7分袖の白いカットソーといった部屋着のままの俺と、長い髪を纏め上げ、化粧をしている母さんと向かい合う形で椅子に座り、朝食を取っている最中。
母さんが頬に手を添えて、なにやら思案するような顔を見せたけれど、俺は構わず残り半分のトーストにかじりつく。
「どうしよう? 蓮」
暫くして、わざとらしく弱々しい声で言われ、俺は渋々トーストから顔を離して視線を上げた。
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