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「本当かよって思ったっていうか……」
ボソボソした声は、テレビの音によって掻き消されたかも知れない。
けどまあべつにいいか、聞こえてなくても。
と思った矢先に、母さんが「何言ってんのよ」と、軽い感じで笑い飛ばした。
「蓮はお母さんの自慢の息子よ? 私と違ってスポーツが得意で、優しくて、おまけに俳優さん並にイケメンだし。まあ、成績のほうは今ひとつみたいだけど?」
続けてそう言ったうちの母はたまに調子のいい事を言ったり冗談を言う、いい意味で能天気で、明るい人だ。
けれど、時々こちらがハッとさせられるほど、母の纏う雰囲気や周りの空気が柔らかくなる瞬間がある。
今がまさにそうで、無意識に見入っていたら、母は目を閉じて口角を上げた。
「それだけじゃなくて、お父さんが居なくなってからよくやってくれてるもの、蓮は。すごく助かってる」
「……そっか」
改まって言われると気恥ずかしい。
それより、まさかここで父さんが出てくると思わなかった俺は、上滑りな返事しか返せなかった。
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