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「じゃあ行ってくるけど、頼んだ洗濯とお使い、忘れないでよ?」
「お使いって小学生に言うみたいに言うなよ、つーか分かってるから、早く行って」
鍵を閉めるついでに、これから仕事へ行く母さんを、会話をしながら玄関まで送ると、母さんは俺を振り返って。
「つれないなぁ」
と言いつつも笑顔を見せ、玄関のドアを開けた。
俺はそんな母さんを見送ると、ジャージのポケットに差し込んでいた手を片方出し、ドアを締めて施錠した。
あの手土産は母さんが夜に持っていくということで、俺は安堵していた。
変わりに洗濯を頼まれ、スーパーへ買い物へ行く事になったけれど、それはいい。
俺を養う為に母さんは仕事を頑張っているのだから、出来るフォローは何だってしたいと思っている。
挨拶回りとか、そういう面倒事は嫌だけど。
玄関からそのまま自室へと戻ると、ブルーのカーテンがユラユラと揺れているのが目に入った。
近くまで寄ると、朝起きた時に開けた窓の間から気持ちのいい風が流れ込んできて、髪が靡くと同時に俺の体を包んだ。
そこでふいに思い出の蓋が開き、幼い自分と母と父との3人で、あの桜並木を手を繋いで歩いている姿がぼんやり、脳裏に映し出された。
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