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春になるとあの川まで行って、桜並木を並んで歩いた事。
うっすらと思い出しては、母さんの事が心配になる。
母さんは、本当にここで良かったのだろうか。
父さんの事を思い出して、寂しくなったりしないかって……。
そんな風に心配したところで、今更どうしようもない事実に、ほんの少し歯がゆさを感じながら。
留まりそうになった思考を無理やり断ち切って、さっとカーテンを閉じた。
それから、頼まれた洗濯を午前の内に済ませると、あっという間に午後になって。
部屋着から黒のパンツとグレーのトレーナーに着替えると、ジャケットを上から着て部屋を出た。
頼まれ事の1つ。
スーパーまで買い物へ行く為に。
開け広げたドアの向こうは、薄い水色の空が悠然と広がっている。
そんな晴天を背に、片手に持っていたスペアキーを差し込んで戸締まりをしようとした、その時。
ガチャ……と、ロックが外れる音がして、反射的に左へ振り向く。
その先……。
つまり、今俺から見て左の部屋のドアが開いて、そこから1人の女が出てきた。
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