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「そういえばあなた、棚田さんのお宅の前に居たわよね?」
「あー、はい、これを渡そうと思って。でも昨日もでしたけど、今日も留守みたいで」
ふいに訊ねられ、小包を見せて事情を説明すると、桜井さんは片手の指先を頬に当て棚田さん宅のドアを見た。
「そうだったのね。棚田さんあまり家には居ないようだし、なかなか会えないかも知れないわねぇ」
「え?」
廊下で今度は戦隊ヒーローの真似をしだした男の子を尻目に、俺は一瞬ポカンとする。
「……居ない?」
「ええ、詳しくは分からないけれど。あ、でも娘さん……、陽愛ちゃんだったら朝か夜なら居ると思うわ」
ひ……、なんだって?
家にあまり居ないという軽い衝撃を受けた上に、名前をうまく聞き取れず、眉を寄せている間に「一度、その時間帯に訪ねてみたらどうかしら」と提案された。
「……そうしてみます。ありがとうございました。それじゃあ」
桜井さんに一礼し、目が合った男の子に手を振り、自分の部屋、508号室へ向かった。
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