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でも、少しわかるようになっていた。悠斗さんの方が――
肘を折って、カクテルを手にする横顔を見ていた。
『莉緒が好きだよ』そう言ってくれたのは、悠斗さんだったんだ。
「莉緒」
グラスに口をつけて、前屈みにわたしの方へ―― 不意に悠斗さんの唇が合わさる。わたしの喉を濡らしていく甘いリキュール。
な、な、なんてことするのっ。
カッーと熱くなる頬。唇の端から溢れたお酒を指で拭う。
「俺だけ見てろ、って。言ったよね?」
クスクス笑う悪戯な瞳。絶対にからかってる。
「ちょ、ちょっと待って。悠斗さん」
ちゃんと説明して欲しい。二年の間のこと。
「悠斗さんの好き、信用できない」
目頭が熱い。悠斗さんの顔が潤む瞳でぼやけてしまう。だからお願い、きちんと話を聞かせて。
店の中はざわつき始めていた。だいぶ混みだしてきていたようだった。
「声が掻き消されるな」
出よう―― 座席から立ち上がり、戸惑うわたしの腕を掴む。促されて歩き出す。
マスターに挨拶もちゃんとできないで、カフェバーをあとにした。
外はもう、すっかり夜へと陽を落とし、星が見えている。夏の風が肌に心地良く吹いていた。
差し出された手が、わたしの手を握って。悠斗さんが足早に歩くから、引っ張られるみたいに付いて行く。
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