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その日の夜、カフェバーMOONのマスターから突然連絡がくる。
なんだか少し様子がおかしい。
「とにかく来て頂戴」
今までにそんな連絡無かったのに。
昨日訪れたばかりのカフェへと足を早めた。わたしと悠馬さんの姿を見た瞬間の、怪訝そうな表情をしたマスター。あれは気のせいだったのかな。
カフェバー【MOON】
店の中へと足を踏み入れる。カウンターの中のマスターが、わたしに気が付いて、人差し指を横に振り、奥の方へと指し示した。
あっち? 頷いて奥の座席へと向かう。昨日腰掛けていた壁側寄りの方へと。
目に飛び込んだ、壁にもたれた悠さんの姿。
口元の端が切れて、血が滲んでる。シャツが着崩れでいて、開いた胸元から僅かに鎖骨が見えている。
「莉緒――」
俯いていた顔が、近寄るわたしに気が付いてこちらを向く。
悠馬さん……?
一緒にいたからわかる。悠斗さんの悪戯な笑みじゃない。優しく微笑みかける瞳は悠馬さんだ。
「どうしたの? 莉緒」
言いながら崩れ落ちかかる足元。痛っ―― 小さく吐き出された声。支えようと伸ばした腕を、悠馬さんの手が止める。
「だめだよ。大丈夫だから」
ちっとも大丈夫そうに見えない。髪は乱れて、唇の端は既に傷になっているのに。
「せめて腰掛けて」
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