1639人が本棚に入れています
本棚に追加
――言葉が出なかった。
背筋がスッと冷たくなる気がした。
「先生、控え室の方へ」
後を追い、人波みを抜けて来た悠が彼女へと声をかける。
「今、行きますわ」
背中を向けた彼女の長い髪がまた揺れる。控え室と歩き出した彼女に付き添う悠が、足を止めて私達二人を振り返る。
視線が合わさった。
何も言葉を発しない悠の表情は、わたしにはどこか哀しそうに見えた。そう、思いたかっただけかもしれないけれど。
悠の視線を受けた悠馬さんが、わたしの前に立ち塞がった。見えるのは広いその背中。
最初のコメントを投稿しよう!