求愛

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 ――言葉が出なかった。  背筋がスッと冷たくなる気がした。     「先生、控え室の方へ」 後を追い、人波みを抜けて来た悠が彼女へと声をかける。 「今、行きますわ」   背中を向けた彼女の長い髪がまた揺れる。控え室と歩き出した彼女に付き添う悠が、足を止めて私達二人を振り返る。  視線が合わさった。  何も言葉を発しない悠の表情は、わたしにはどこか哀しそうに見えた。そう、思いたかっただけかもしれないけれど。  悠の視線を受けた悠馬さんが、わたしの前に立ち塞がった。見えるのは広いその背中。
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