唯一の人

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唯一の人

 イベント終了後、先に社に戻っていた悠斗さんから連絡が入った。予定より仕事が延びているという。  カフェバー・MOONで待っていて欲しいと。  片付けは間もなく終わる。悠斗さんに会って、きちんと話がしたい。今日1日のことを。  「お疲れ様ね」 薄いグレーグリーンのスーツ。だけどもう、なんとなくわかる。悠馬さんは物腰が柔らかい。  聞かなくちゃ。本当のこと。 「どうかした?」 好き―― って。なんだろう。 「このあと…… 会えますか?」 ふっ、と。悠馬さんの瞳が笑った。    カフェバー・MOON  あの頃の看板のまま、お店はそこにあった。木造りの外見がお洒落な、学生時代のアルバイト先。  入口の扉を開くと、懐かしい笑顔がこちらを向いた。 「おぉ、久しぶり。莉緒ちゃん」 マスターの和真さんだ。あんまり変わってないな。  わたしの背後に目を向けて、マスターの表情が一瞬曇る。だけどすぐににっこり笑った。 「奥、空いてるから。悠」 悠馬さんの姿に? マスターの表情が少し気になったけど、そのまま奥の座席へ向かう。  壁に面して隣合わせに腰掛ける。悠馬さんと並んで。 『いいよ。莉緒のお誘いなら』 そう言って付いて来てくれた悠馬さん。     
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