見えているのは、本物か

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 次の日の朝。 「おはよう、苺」 「ん…ぁ、」  その声で苺摘は目覚めた。先程まで起きていた筈なのだが、どうやらいつの間にか二度寝をしてしまっていたみたいだ。しかし、苺摘が眠ってから数十分程しか経っていなかった。波旬が優しく肩を揺さぶっている、その振動をぼうっと受け入れている。  ゆっくりと目を開けると、蕩けるような笑みを浮かべた波旬の顔が見えた。左右で色の異なる灰がかった双眸が鈍く光っている。  ただでさえ間近にある筈のその瞳が徐々に近付いて来た。 「声、出ねぇの?俺が貰っちゃったんだな。ごめん、その声すら誰にもあげたくないから」 「ぅっ…」  昨日変な声を出し過ぎて喉を痛めてしまっただけだ。そう反論しようと思ったけれど、ただ掠れた呻き声が出ただけだった。本当に声を奪われてしまったみたいな錯覚に陥ってしまう。波旬の言葉が少し怖い。  波旬がゆっくりと近付いてきて、ゆっくりと唇を塞がれた。 「好き。苺」  好きなら解放してくれ。こんな悲しい余生の送り方なんて嫌だ。そう目線で抗議する。  唇が離れたと思ったら、波旬がまたぎゅっと俺の事を抱き締めた。  苺摘が腕を動かそうとすれば、カチャリと拘束具の金属音が鳴った。 (そうだ、俺は今…そうだった。今の俺じゃお前を抱き締め返す事も出来ない)  目尻から一筋の涙が流れた。
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