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波旬に連れられて来た先は、学園の外だった。
あのまま車に乗せられた時はあれって思っていたけれど、まさかこうやって外に出られるなんて。特に手続きもせずに、学園から出る事が出来てしまった。
車から降りると、波旬にとある公園の中に連れていかれた。二人は並んでブランコに座っている。
波旬はキィっと音を鳴らしながら緩くブランコを揺らしている。そして何故かそれを動画に撮っている。多分、SNSに投稿する用のものなのだろう。波旬は顔が良い。たしか、モデルか何かをしてるという噂を苺摘も耳にしたことがある。雑誌にも出てるらしいが、苺摘自身は特に彼の仕事をしている姿を見た事がなかった。
クラスの生徒達がよく噂をしていた。SNSでも人気者らしく、投稿をする度に、クラスメイト達がよく悲鳴を上げているのを聞いていた。その手の事に疎い苺摘は、あまり把握をしていない事ではあるが。
「クセになる」
波旬がボソッと言った。
ブランコの事だろうか。気持ちは何となく分かるかもしれない。昔は好きだった。しかし、正直今はそういう気分じゃない。家に帰って家族と過ごしてたい。それが苺摘の本音だった。
ただ、あの学園の外に連れ出してくれた事については感謝だけど。
「苺」
「…それって俺の事?文字数変わらないんだから、苺摘って普通に呼べよ」
幼少期、苺ちゃん、とか、兎ちゃんとか呼ばれていたのもあって、むず痒い気分になる。名前がやたら可愛いせいで、苺摘の名前だけを知っている人は、彼の顔を見た時に『あっ…』て表情をする事がよくあった。この名前である事に、良い事なんてひとつも無いのが苺摘の記憶だ。
波旬はブランコから降りると、こっちにやってきた。
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