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「あと10日間、どうすんの」
波旬は苺摘の前でしゃがみ込んだ。彼を見上げている。
「…とりあえず、実家に戻ろうかなって」
授業に出てても眠いだけだし、今はもうやる気が起きない。好きな事だけをしていたい。どうせあと10日間しか生きられないんだから。
そう思うとゾッとする。苺摘は固まった。
「…おい!苺!」
「あ、え、ごめん。なに?」
10日後の事を考えていたせいで思考が飛んでしまっていたらしい。何故か波旬は焦ったような表情をして苺摘の肩を揺すっていた。
「聞いてなかった」
「他には何をするのかって聞いたんだよ」
波旬は俺の視線を確認すると、ホッとしたようにため息をついた。
「あぁ、えっと…後はそうだな…。好きな物を食べて、ふっかふかのベッドで寝て、朝起きたら掃除洗濯全部終わってたら完璧だな」
「…」
波旬は可哀想な奴って感じで苺摘の事を見ていた。もっと他に欲は無いのか。そういった感じだった。
正直、ほっといて欲しい。恵まれた環境に生まれた波旬と違って、苺摘は自分の手で頑張らないと手に入らない。豪遊する、とか、好きな所に行くとか、そういう考えを持った事が無かった。比較的虚無だ。
「欲がねぇのな」
波旬は心配そうにそんな苺摘を見上げていた。
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