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「もっとなんか下心丸出しなやつねーの?」
「例えば?」
何を引き出したいんだろうか。少し波旬の動機を疑ったが、正直に言えば、学園から連れ出してくれただけ有難い、だからきちんと相手をしよう。そう苺摘は考えていた。自分との会話に目的がありそうだ。何となくそんな気がするが、彼の意図が掴めない。
「死ぬ前までにチェリー脱却、とか?」
「…っ!余計なお世話だっ!」
急に何を言い出すんだと、性経験の無い苺摘は顔を真っ赤にした。
確かに女の子と一度も遊べずに人生を終わらせるのは嫌だ。男なら誰もがそう思うだろう。しかし苺摘が通っているのは男子校だ。物理的に無理だろう。これから彼女を作るにも無理がある。
芸能人という肩書きを持っている波旬とはわけが違う。学園の外に行く事なんて実家に戻る時以外に無い。苺摘の生活はどこまでも平凡だった。
よくよく考えれば、なんで女の子とも自由に遊べる環境にいるのにこいつは男子を侍らせているのか。不信げに苺摘は波旬を見た。波旬の周りにいる男子達は、確かに女の子みたいに可愛い。だが、忘れてはいけない。波旬の周りにいるのは全て男子だ。
「女の子とかは別にいい。そうだな…強いて言うならタルトが食べたい」
「好きなの?」
「うん」
「へぇ、いーじゃん」
波旬は苺摘を見ずにスマホをいじり始めた。自分が欲を言えばこう返されるのか。苺摘は少しムッとした。
ふんとそっぽを向くと、波旬にいきなり腕を取られた。
「作ってやるよ」
「は?」
「イケメンが作るタルト」
そう言って波旬はにっと笑う。波旬は苺摘の腕をグイグイ引っぱり、車に押し込めようとしてきた。さっきから波旬はとても強引だ。まるでモノを扱うみたいにされている気がした。
「ちょっと、引くな!ちゃんと乗るから!」
こんな時になんで振り回されなきゃ行けないんだよ…好きにさせてくれ!苺摘は心の中で悪態をついた。
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