魔に魅入られた苺

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 波旬に連れられた家は川沿いにある、かなり豪華な物件だった。家代はいくらなんだろうか。普通の家の数倍の広さはあるその家を、苺摘唖然として見上げていた。  中へ入れば、あれよあれよと促されるままリビングのテーブルへと座らされた。キッチンに立った波旬は、エプロンをかけてから手を洗っていた。本当に作るつもりらしい。  波旬は料理が出来るのか、見事な手際でタルトを作り上げていた。バターの良い香りが部屋中に立ち込めている。そう言えば朝から何も食べていなかった。空腹を自覚した苺摘は思わず自分のお腹をさすった。  自分も手伝う、と声をかけみたが、波旬はにっこりと笑うと「そこで待ってて」と言った。他人の家に上がる事なんてこれが初めてだ。少しだけ緊張していた。そんな苺摘の雰囲気を察知したのか、キッチン越しに波旬は雑談を投げかけてくる。  そうしている間に、タルトは出来上がっていた。 「出来た」  そう言って持ってきたのは、苺のタルトだった。ルビー色の果実が砂糖によってコーティングされ、見事な光沢を放っている。  職人が作ったみたいに綺麗に作られていた。凄いな…波旬にこんなスキルがあったなんて。苺摘は心の中で感心した。 「凄い…何で作れるの」 「ステータスの為。お料理男子は案外モテる」  成程、雑誌のモデルをやってるらしい、かの有名な波旬様は、世間の好感度アップの為にもこういう事にも手を出している、と。そうだとしてもここ迄作れるようになっているのは純粋に凄い思った。相当な練習が必要だったのではないか。  波旬はテーブルの上に載せたホールのタルトを器用な手つきで切り分けて皿に乗せた。  三角形のタルトケーキが苺摘の前に置かれる。 「本当に食べていいのか?これ」 「どうぞ。苺の為に作った」  対面に座った波旬は、スマホのカメラを苺摘に向けてニヤニヤと頬杖をついている。  なんだか気まずい、でもここで食べるのを断ったら良くないし、食べよう。苺摘はカメラを気にしないようにしながら、フォークを手に取った。一口大にしたタルトを掬って頬張った。
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