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「ご馳走様でした」
好きなだけ食べればいいという言葉の通り、苺摘は好きなだけ食べさせてもらった。苺のタルトは苺摘の好物だった。だから凄く幸せだ。思わず頬が綻んでしまう。
「はい、目的一つ達成」
「…ありがとう」
「意外と素直なんだな」
律儀にお礼を言う苺摘を前に、波旬はきょとんとしている。
「人の事をなんだと思って…」
俺の事を眺めていた波旬は頬杖をついたまま俺に人差し指を向けた。
「苺、カスタードがついてる」
「え、どこ?」
「そこ」
波旬は苺摘の顎を掴み、親指で口の端を拭った。
そしてそのまま、ちゅっとキスをする。
その動作で苺摘は固まった。
「…なに、急に」
「嘘に決まってるじゃん」
波旬は悪戯顔で苺摘の事を見つめている。弧を描いた口元から、白い歯が覗いていた。
「ねぇ、今日はもう俺の家に泊まってよ」
「いや、それは…」
「下着も、シャツも全部用意するから」
波旬は苺摘の顎を掴んだまま、親指で唇をなぞっている。世話になるのが忍びないので断ろうとしたが、波旬は無言の圧を出してくる。
「苺、俺、人肌が恋しいの」
「は…?」
一体何の誘い文句なんだ。波旬の目はギラついていて、少しだけ、怖いと感じた。
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