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結局断る事も出来ず、苺摘は波旬の家に泊まる事になった。学園から都内に行くだけで時間がかかってしまった為、時間ももう遅い。寮に戻ろうにも戻れない。どうする事も出来なかった。
大きな理由をいえば、帰すつもりは無いですといった感じのオーラを波旬が隠しもせずに出していた事もあった。無理やり外に出た所で道を彷徨う羽目になりそうで、どうにかする事も出来ない。
波旬に促されて苺摘は風呂に入っていた。浴槽には5羽のアヒルのおもちゃがぷかぷかと浮かべられている。何故こんなものが波旬の家に…彼の趣味だろうか。
それにしても、脚が伸ばせる浴槽なんて小学校の頃に家族に連れられて行った銭湯以来だ。苺摘は浴槽の中で伸びをする。
苺摘はお湯に浮かんでいる1匹のアヒルを掴んでぎゅっと握った。そしてお湯の中で握る手を緩ませて中にお湯を入れる。そのまま手を離すと、そのアヒルは浮かばなくなってしまった。浴槽の底へと沈んでいく。
「こえー、残酷…ごめん」
いくら相手がアヒルのおもちゃだとしても、片手で握るだけでこんな風になってしまうのかと思うとなんだか切なくなった。
苺摘は沈んだアヒルを掬い上げて中の水を抜いた。そしてまた手を離すと、そのアヒルは何事も無かったかのようにお湯の上を漂い始めた
「喉元過ぎれば熱さも忘れる、か」
自分の掌で弄ばれてるアヒルが可哀想に見えてきた。
なんだかどんどんネガティブになっている気がする…。ダメだ、こんな事を考えていても何にもならない。苺摘は1人で首を振った。
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