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「なんで俺たち…タルト専門店経営してるの…」
起きて波旬と朝ごはんを食べた後、訳が分からないままに苺摘はウェイター服を着せられていた。そして波旬は鏡の前で座っている苺摘の髪を、後ろに立っていじっている。
「ほら、苺。可愛いよお前」
「…可愛いって…」
一体誰に言っているのか。その言葉を苺摘は無理やり飲み込んだ。
目の前に設置された鏡を見ると、綺麗にセットされた髪のお陰で、いつもより清潔に見えた。それに、顔立ちが普段と違ってキリッとしている。
苺摘はふととある違和感を感じて、自分の顔に手を当てた。
「あれ、俺の眼鏡は?」
「眼鏡?別にお前、元からつけていないだろ」
…おかしい。眼鏡をかけないと、殆ど何も見えない筈なのに。本当に夢の中らしい。苺摘はそう確信した。
「なぁ波旬、俺の頬を抓って見てほしい」
「なに。いーけど」
波旬はめんどくせぇって顔をしながら、彼の頬をぎゅっと抓った。想像以上の痛みに、苺摘は涙目になった。めちゃめちゃ痛い。波旬は相変わらず、遠慮が感じられない強さで抓ってきている。
もういい!痛い、離してくれ…!苺摘はパンパンと波旬の手を叩いて制止するように懇願した。
「気が済んだか?」
「…うん」
波旬は労わるように苺摘の頬を優しくなでている。労るなら最初から優しく抓ってくれればいいのに。そう思ったけど口には出せなかった。
何故なら、苺摘の頬を撫でる波旬の手つきが、なんだか恋人にするみたいに距離の近い撫で方だったからだ。あまりにもむず痒くて、苺摘は自分の頬がじんわりと紅く染まっていくのを感じていた。
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