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「苺、お疲れ様」
夕方になる前にタルトが売り切れた。この店は完売したら閉店するシステムらしく、波旬にまた教えて貰って閉店作業をした。
2人で店から2階にある家に戻る。波旬はテーブルにつっ伏する苺摘に紅茶を淹れた。どうやら慣れない動きをしていた苺摘を、彼は労わっているらしい。
「本当に、ここ、現実なのか…」
「…現実じゃなかったらしんどいな」
苺摘の対面に座った波旬がじっと見つめている。その視線が妙に熱っぽくて、なんだか恥ずかしくなってくるのを感じた。
「あんまり見んなよ…何が起きてるんだ。波旬が俺の恋人だなんて…」
「苺、こっちを向いて」
「何?」
波旬が腕を伸ばして苺摘の顎を掴んだ。恥ずかしいから見たくない。そう思ってもなんでか波旬の言葉に従ってしまう。
自分が眠る前の波旬の動作と、どこか同じものを覚えた。
戸惑う苺摘を見た波旬は、切なそうに顔を歪ませて言った。
「ずっと好きだったんだよ。お前を手に入れるのに俺がどれだけ努力したと思ってるんだ」
「…どんな努力?」
そもそも何で自分を選んだのかも分からない。学園内での波旬はいつも、隣りに誰かしら綺麗な子を連れていた。誰か固定の人じゃなくて、取っかえ引っ変えしているみたいだった記憶がある。
「苺の事、毎日毎日口説いた」
「チャラ男のくせに?俺に?」
「はぁ?苺のくせに俺に楯突くとかムカつく」
苺摘の顎を掴んだまま、波旬は不機嫌な表情を浮かべた。
…ていうか、毎日毎日口説いてやっと手に入れたらしい俺にどんな態度してるんだ。こいつは。苺摘は目を細めながら波旬を見た。
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