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魔に魅入られた苺
朝礼の鳴り響く音を無視して、苺摘は廊下を歩いていた。
この学園は都会から離れた山奥にある。だから、実家に戻るには色々と手続きをしないといけない。苺摘は車を手配してもらう為に、とりあえず学園の事務室に向かった。
「よ、苺」
「…波旬?ていうか苺って何」
声が聞こえたので振り返ると、そこには波旬が立っていた。サボりか。不良め…。と思ったが、如何せん自分もそうた。人に言えるような状態では無かった。
波旬は苺摘に尋ねてきた。
「あの後どうなった?」
「…無理だった」
「だろうな」
思い出すだけでも悲しい。こんな明らかに貞操概念皆無ですって感じの奴とキスして何も起こらなかったなんて。正直溜息が出る。決して波旬が悪い訳では無い、悪いのは運と自分の考えだった事も分かっている。
しかし、今朝方の事を思い出すと、どうしても誰かに責任転嫁をしないと、心がもたなかった。
波旬は表情の読めない顔でそんな苺摘を見眺めている。
「サボるなら付き合え」
「え、ちょっと、何」
苺摘の傍に近付いてきた波旬がシャツの後ろを掴んで引っ張った。お陰で首を掴まれた兎みたいになってしまっている。勘弁してくれ…、と苺摘はキッと波旬を睨んだ。
このままではシャツが伸びてしまう。
「着いてくから!その手を離せ!」
本当は今すぐにでも実家に戻りたい。でも波旬は離してくれる気がないみたいで、苺摘のシャツを掴む力が強かった。離すつもりは無いらしい。諦めた苺摘は、大人しく彼に連行される事になった。
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