【序幕】

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【序幕】

それは、未来のお話。 その依頼箱に依頼をすれば、きっと、いい未来が待っている……はずです。 世は今から数世紀後、「風月時代」。 この小さな島国、日本の技術は飛躍的に革新し、世界の頂点を他国と争うことができる水準まで上り詰めた。 機能性に優れた端末の供給は安定し、貿易などの仕事は機械が人間に取って代わる。 しかし、技術が成長するたびに、この小さな小さな島国に人は溢れかえり、同時に、発達しすぎた機械越しに繋がる人々は心の繋がりを大切にしなくなり、「人との和」をなくしていった。 数十年前から政治は汚職や不正に塗れ、末に紛争が幾度も巻き起こったことにより、民は不信感をあらわにし、諦観を決め込んでいた。 そんな状況を嘆いた一人の政治家は、真摯に国民に向き合い、もう一度機会をくれと頭を下げて請うた。 あまりに人の心をないがしろにしていた政府の中で異色を放ったその彼に、民たちは最後の希望を掛け、崇拝、依存に近い感情を持つようになった。 彼が死ぬ間際に言った「祖母の家の畳が好きだった。あれは落ち着く。国民にもあの落ち着きを取り戻させたい」という言葉を聞いたその跡継ぎは、かつての日本の「和」を取り戻すために、この国には「退化」が必要なのだと唱え、昔の文化を取り入れようという政策を取り、「統治者の世襲制の復活」「各都道府県の所在地は城とすること」、「市町村は城下町とし、洋風の建物は禁止すること」を三つを定め、行き過ぎた技術でそれを実行してしまう。 また、増えすぎた人口を押さえつけるために、「国民はそれぞれ、刀、弓、槍、その他日本の武器を持ち歩くこと」、ならびに「その武器においては自己責任で、1人につき3人殺して良しとする」という、「和の心」とやらとは正反対な、非人道的な政策まで推し進めたのだ。 統治者は「将軍」、警察組織は「新撰組」「見回り組」「奉行所」、政府は「幕府」と名を改められ、武力で以って政策に反対した人々を黙らせた。 当然、反発は高まる。「自己責任」の言葉の下に人は殺される。 殺された人々の恨み辛みは募りに募って異形を呼び、異形たちはこの世のものならざる「妖怪」として人々を襲い回った。
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