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夜の帳が下りてから、もう随分と経った。
その女は、闇に紛れるようにやって来た。
またこの女だ。達也は表情を変えないまま、来店した客を横目で眺めて、短く「いらっしゃいませ」と定型の文句を言う。その女は、決まった時間にこのコンビニを利用する。
年は自分とさほど変わらないのではないか、と達也は思う。彼はこの4月から大学に進学し、生活費と交友費のためにアパート近くのコンビニでアルバイトに勤しんでいた。
オーバサイズ気味に着た白いパーカーと明るめの色をしたジーンズ。カジュアルなファッッションが好みらしい。女は両手いっぱいに段ボールを抱えていた。
いつもこうだ。この女は、コンビニで何かを買うということはせず、持ち込みの段ボールを山ほど持って来る。達也の働いているコンビニから、発送するためだ。
「はいこれ。お願いします」
大小さまざまな段ボールをレジまで持って来ると、女はパーカーのポケットから角が折れた用紙を取り出す。一枚一枚が段ボールの送り先と対応していて、店側はそれを一つ一つ読み取らなければならない。
コンビニの仕事にもだいぶ慣れてきたせいか、この手合いの客が最も手間がかかることを達也はよく知っていた。専用の伝票を印刷し、それを段ボールに貼り付け、伝票の控えを客に渡す。これを何セットも繰り返すのだ。
女がやって来るのは木曜日の夜か土曜日の朝だ。ほぼ毎週、そのどちらかの日に段ボールを抱えて来る。数はまちまちだ。
淡々と伝票を処理しているが、如何せん普通のレジ業務よりも時間がかかる。やがて達也のレジには数人の客が並ぶことになった。
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