黒い箱

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 事件現場に赴けば、その明晰な頭脳で犯罪者を一刀のもとに斬りふせる名探偵。たまに毒舌で、面倒くさがりなところが玉に瑕だが、それも愛すべき個性だろう。しかしながらその私生活は、趣味から何からベールに包まれていた。 「まるで僕に友人がいないような口ぶりじゃないか。こんな風変わりな職業をしているが、僕だってそれなりに人間関係は構築しているんだよ。人を隠キャのように思わないでくれたまえよ」 「いやいや、思ってませんって。逆にそういうことを饒舌に話されると、それはそれで怪しい感じがしますよ」 「なにぃ。君だって事務所に入り浸っているじゃないか。友達がいないのは君の方だろう」  どんどんムキになるあたり、友人は少なく、しかもそれをコンプレックスに感じているのがひしひしと伝わって来る。それこそ入学したてのウェイ系な大学生のような気もするが。 「俺がここに入り浸るのは、そういう雇用形態だからなんですけど」  決してシフト制ではないが、特に忙しくなければ事務所で待機。それで給料、もといアルバイト代を貰えてしまっているのだから、自分は恵まれている方なのだろう。海老石も話し相手が欲しかっただけというきらいもあるが。兎にも角にも、それが尊の探偵助手としての日常だった。 「全く、減らず口だけは達者になったものだ。……まあ、それはいいとして。明日からはしばらくは事務所を開けなくても構わないよ」
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