第1章 伝令と違和

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平成に代わる元号として2019年5月1日に施行された「令和」の表記については、少数ではあるものの、批判や違和感の表出が、主にネット上において見られてきた。 代表的な批判は、 『令和の令を見ると、命令の令を連想する』 『命令や指令をする、という支配層の意図が、明確に込められた元号なのではないか』 が挙げられる。 それらに対し、 『令という漢字には複数の意味があり、今回の元号では『令月の令』なのであろうから、なんら問題視するには当たらない』 『もう決まったことにつべこべ文句言うな』 といった真っ当な反論がなされても、完全に沈静化することは難しかった。 そこで、複数の有志(要出典)が、義憤を胸にこの運動に着手した。 運動の中核をなすのは、 「『令』の文字を思い浮かべた時、真っ先に思い浮かぶイメージが、誰にとっても『美しい』、『調和のとれた』でありさえすればよい。そのためには国民的な運動を仕掛ける必要があるだろう。そうして続けることで、全国民の持つイメージが、誰も気づかない間に変わってしまう。そんな手口が重要だ」 というものであった。 有志のひとりは、経営する企業の行う社会貢献事業の一環として、この運動に取り組んでいる。 その方法は、「#(ハッシュタグ)」の使用を巷間に広めることにより、元号令和へポジティブイメージを付与する、あるいは、令という漢字の第一の意味は「美しい」であると広く浸透させる、というものである。 中心的なハッシュタグが「#令和を寿(ことほ)ぐ」であり、他に「#令は美しい」「#一同令」の二つがある。 これら3つ以外のハッシュタグが任意に考案され、発出されることは、まさに一件の例外なく、禁止されている。 そうしたハッシュタグを発出しようとしてもアップロードできない・運営のチェックにより消去される等の措置を講じるよう、各SNS等の運営会社による統制が厳命されている。これは、この運動の重要な特徴である。 一人ひとりが現代日本の政治・経済における主要なファクターである有志たち(彼らを有志連合、あるいはチーム令和と呼ぶ者もいる)が、志を胸に続々と活動に身を投じている姿。 これは美しいという外なく、この運動の仕掛け人である「運営」は日々様子をチェックしながら、胸を熱くしている。 日本運営の感動=「それ、いいね」が、またこの運動を加速させていくのである。
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