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教室内での彼の席は窓際だ。授業に飽きてくると、よく外を眺めていた。
その日も退屈な話を聞きながら、二階から校舎を見下ろしていたそうだ。
「校庭の隅っこ、ほとんど柵ぎりぎりのところに、穴のようなものがあったと言うんです」
校庭はフェンスで囲われており、その左角に、黒い穴らしきものが見えたらしい。
もちろん教室からは随分と遠いので、はっきりとは見えない。
ただ「あんなところに穴なんかあったかなあ」と気にはなったそうだ。
生徒が遊びで掘ったくらいならばあれほど黒くは見えないから、小さくはあるがそれなりの深さだろうと思われた。
授業が終わり、貴重な休み時間になって、彼は穴のことなど忘れてしまった。
それほど気を引くようなものでもない。
再び思い出したのは次の日だった。
その日は朝から今にも降り出しそうな灰色の雲が立ち込めていた。
やはり優斗君は授業に飽きだして、窓の外を見やる。
そういえばあの穴はどうなったかなと、ようやく思い出して探してみた。
「どれだけ見渡してもなかったようです。一度気になったら落ち着かなくて、授業が終わるまで探してたみたいなんですが」
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