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カツン、カツン、と硬質的な音が、石畳の地下牢によく響いた。
近づいて来る音と共に、絶望の色が濃くなっていく。ああ、まただ、あいつが来る。そして私に耐え難い苦痛を与えるのだ。
松明の炎だろうか。目の前でチラチラと灯りが揺れる。光に慣れていない目が痛む。
「不死の魔女よ、話す気になったかな?」
その人物は、鉄格子越しに私に話しかけた。
「何も…教えられる事は…無いのよ。不死は…魔法なんかじゃ、ない…呪いなの」
細々と口にした、私の何度目かの同じ答えに、男は鼻で笑った。嘘ではない。不死なんてちっとも良いものではない。私は好んでこの体になった訳ではないのに、いくら説明しても、この男は納得しないのだ。
男は、最初に出会った時の印象通りなら、一見柔和な表情を浮かべているに違いない。仕立ての良い濃紺の魔導服をまとっており、落ち着いた物腰は、人々に好印象しか与えないだろう。医療魔法の研究をしているとか言っていた。
私は不死の魔女として千年という時を生き、その分膨大な知識を持っていた。男は不死ではない魔法使いであったが、かなり勉強していたようで、私に引けを取らない知識を持っていた。
互いに医療魔法の話で盛り上がり、久々に対等に議論できる相手と出会った事で、私は舞い上がっていたのだと思う。会食会に誘われ、何の疑いも無く承諾してしまった。その食事に毒が盛られ、最初からこの男の狙いが不死の秘密を聞き出す事であったとも見抜けずに。
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